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44話 アナザージャスティス

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-05-19 06:42:03

「はぁ……だるいな。あのガキ散々やりやがって……」

オレはまだ痛む傷口を抑え集合予定場所のファミレスへと向かう。いくらオレ達イクテュスが、特にオレのような上位の者が再生能力が高いといっても痛いものは痛いしできれば怪我はしたくない。こんな損な役回りをされて溜息をつきながらも、使命のため、仲間のため仕方ないと割り切る。

「いらっしゃいませ。お客様は……」

「三名で入っている。その連れだ。二人はもう来て……」

「あぁあちらのお客様でしょうか?」

店員が指差した方にはオレの同志であるメサとライが座っていた。

「そうだ。助かった」

オレは席まで歩いて行きジュースを飲んでいる二人の前に向かい合うように座る。

「φδ△∂⇩^♪?」

「おいメサ。ここでは人間の言葉で話しな。周りから怪しまれるよ」

体格の大きい姉御肌のライが小柄の地雷ファッションのメサに注意する。

(それ言うなら服装とかも注意しろよ。そんな服で街中歩いてる奴目立つだろ……)

オレも注意したかったが、メサが泣きじゃくりライに締められるのが目に見えている。

(王も何故この二人を……もっと適任が居たろうに)

「どうしたんだゼリルそんな暗い顔して。ほらお前のために珈琲入れてきといたぞ」

「あぁありがとうな」

「ゼリルってなんでそんな苦いもの飲むの? 毒じゃんそんなの」

「うるさないな。この体が欲してるんだよ。恐らく元の奴が好きだったんだろ」

コーヒーを飲むと全身に快感が広がり生き返るような感覚になる。その後運ばれてきた食事を食べつつオレ達は会議を始める。

オレがドリアでメサがハンバーグ、ライがパスタだ。

「それでどうだった? あいつらの実力は? お前でも負けちまったんだろ?」

「人聞きが悪いな。あいつら四人ならオレ一人でも十分だ。光る奴はまだマシだったが他三人は動きが単調だ。

ただ……今日現れた一人のガキがとんでもなく強かった」

変身せずともオレに傷を与えるあの蹴り。それに力だけじゃなく技も正直オレ以上だった。

「そんなに強いのー? あたしやライ姉より?」

「まだ力を隠している雰囲気もあった。三人がかりでも勝てるかどうか怪しい。あいつの弱点を探るためにも、報告も兼ねて王に援軍を申請しておかないとな」

「へぇ……ワタシより強い奴か……ぜひ戦ってみたいね」
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    「はぁ……だるいな。あのガキ散々やりやがって……」 オレはまだ痛む傷口を抑え集合予定場所のファミレスへと向かう。いくらオレ達イクテュスが、特にオレのような上位の者が再生能力が高いといっても痛いものは痛いしできれば怪我はしたくない。こんな損な役回りをされて溜息をつきながらも、使命のため、仲間のため仕方ないと割り切る。 「いらっしゃいませ。お客様は……」 「三名で入っている。その連れだ。二人はもう来て……」 「あぁあちらのお客様でしょうか?」 店員が指差した方にはオレの同志であるメサとライが座っていた。 「そうだ。助かった」 オレは席まで歩いて行きジュースを飲んでいる二人の前に向かい合うように座る。 「φδ△∂⇩^♪?」 「おいメサ。ここでは人間の言葉で話しな。周りから怪しまれるよ」 体格の大きい姉御肌のライが小柄の地雷ファッションのメサに注意する。 (それ言うなら服装とかも注意しろよ。そんな服で街中歩いてる奴目立つだろ……) オレも注意したかったが、メサが泣きじゃくりライに締められるのが目に見えている。 (王も何故この二人を……もっと適任が居たろうに) 「どうしたんだゼリルそんな暗い顔して。ほらお前のために珈琲入れてきといたぞ」 「あぁありがとうな」 「ゼリルってなんでそんな苦いもの飲むの? 毒じゃんそんなの」 「うるさないな。この体が欲してるんだよ。恐らく元の奴が好きだったんだろ」 コーヒーを飲むと全身に快感が広がり生き返るような感覚になる。その後運ばれてきた食事を食べつつオレ達は会議を始める。 オレがドリアでメサがハンバーグ、ライがパスタだ。 「それでどうだった? あいつらの実力は? お前でも負けちまったんだろ?」 「人聞きが悪いな。あいつら四人ならオレ一人でも十分だ。光る奴はまだマシだったが他三人は動きが単調だ。 ただ……今日現れた一人のガキがとんでもなく強かった」 変身せずともオレに傷を与えるあの蹴り。それに力だけじゃなく技も正直オレ以上だった。 「そんなに強いのー? あたしやライ姉より?」 「まだ力を隠している雰囲気もあった。三人がかりでも勝てるかどうか怪しい。あいつの弱点を探るためにも、報告も兼ねて王に援軍を申請しておかないとな」 「へぇ……ワタシより強い奴か……ぜひ戦ってみたいね」

  • 高嶺に吹く波風   43話 背中を摩ってくれる仲間達

    「えーと、健さん? ここの問題ってなんでこの答えになるんですか?」 祝日の月曜日。自宅で私と波風ちゃんは健さんから勉強を教えてもらっていた。 「そこの場合……というより図形の問題は実際に線を書くと分かりやすいよ。ほら、これで何か見えてこない?」 「あぁなるほど!! ここが三角形になるから……」 健さんの教え方が上手なこともあり私はスラスラと問題を解き理解を深めていく。 「ふぅ……流石に朝からぶっ通しは疲れるわね」 時刻は正午手前。朝早くから集合してやっていたので疲れが出始める。 「お昼にするかい? 何か買ってくるか……出前を頼むか……」 「あ、じゃあアタシピザ食べたいかも」 「了解ピザね。高嶺もそれでいいかい?」 「はい! ありがとうございます」 健さんはスマホを操作しピザのデリバリーを注文する。 「さてと気分転換に何か面白い番組でも……」 片付けをし終わった後に健さんは徐ろにテレビをつける。 「あの震災から十年……」 テレビのアナウンサーが読み上げた内容にビクッと体が反応してしまう。 注意文と共に映し出される津波の映像。建物を全て飲み込み、壊し、人々の笑顔と命を奪い去っていく。イクテュスなんかとは比較にならない凶悪で残忍な悪魔。 足が震えて吐き気が込み上げてくる。 「はぁ……はぁ……!!」 あの日の景色が鮮明にフラッシュバックし過呼吸になる。 「たけ兄テレビ消してっ!!」 「あっ、ごめん!」 健さんはすぐにテレビを消してくれる。 「ごめん高嶺。たけ兄が……!!」 「いや……大丈夫だから……ちょっとトイレ行ってくるね」 私は強がった顔を貼り付けながら部屋を出てトイレに入り鍵を閉める。 「うぉぇぇぇぇぇ!!!」 私は喉まで来ていた朝食べた物を便器の中に吐き出す。ぐちゃぐちゃの原型がないものが水にぷかぷか浮かび、それを見てさらに吐き気が増す。 「うっぷ……うぉぇ……」 今度も耐えることできずポタポタと唾液混じりの粘液が口から吐き出される。 (戻らないと……心配させちゃう……) 口元をトイレットペーパーで拭き私はトイレから出る。 ちょうどそのタイミングで家のインターホンが鳴り、私は二人を部屋で待たせ玄関に向かう。 「えっと……こんにちは。えへへ……来ちゃった」 「生人君…

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    生人君は片手だけでなく両手を触手に変えて無数の攻撃を放ってくる。それらは私達を弄ぶように追い詰め体力を削る。 「しまっ……!!」 触手の足の一部がイリオの片足を絡め取る。 「離っ……」 私が助けようと方向転換するよりも速く、無数の枝分かれした触手が彼女の両手足、首、胴体。全身に纏わりつき締め上げる。 「波風ちゃん!!」 宙に上げられる彼女をなんとか助けようと向かうが、触手達が邪魔して容易には近づけない。 「これっ……くらい……!!」 イリオは触手を掴み強引に引き千切ろうと顔を真っ赤にして万力を込める。 しかしその触手達は後方から飛んできた光の塊が通過した途端全て同時に切断される。 「大丈夫かい二人とも!? それよりこれは……」 ノーブルが両手に光の剣を作り出したまま回転を停止させスタッと着地する。 「アイツは人の皮を被ったイクテュスよ……あとキュアリンはアイツのことを隠してた……敵よ!!」 「キュアリンが……じゃあリンカルも……」 あのノーブルも動揺を隠せず表情に狼狽の色が出ている。だが命のやり取りをする現場だということを思い出しすぐに凛とした顔に戻る。 「ん? 体が……うわっ!!」 生人君の体に異変が起きる。突然後方へ引っ張られるように飛んでいく。 次の瞬間闇から飛び出してきたアナテマに彼は殴りつけられ地面へと叩き落とされる。 「ぐえっ!!」 随分と可愛らしく小さな悲鳴を上げるが、宙でクルリと回転して勢いを殺して着地する。 「ぜぇ……ぜぇ……なんとか間に合ったみたいだな。それで殴っちまったけど、こいつがイクテュス……なのか?」 ノーブルから連絡を受けて全力疾走してきたのか、彼女は激しく息を切らしている。 「そうみたいだわ……キュアリンが隠してた!!」 「なんだって……じゃああいつらは……もしかして翠の件も……!!」 アナテマが生人君へ向ける目が明らかに変わる。 彼が、彼とキュアリン達が翠さんが死んだ件の黒幕かもしれない。その可能性が彼女の中の憎悪を急激に増幅させた。 「みどり……? あっ、あの時の……」 「お前なんかがあいつの名前を言うんじゃねぇ!!」 アナテマは激昂し最短距離で彼の顔面を凹ませる勢いで殴りつける。 しかし生人君はすぐさま触手

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